現在理学療法士として働いている方で、将来に不安がある方の方が多いのではないでしょうか?
一昔前は「理学療法士の資格さえもっていれば将来安泰」といった時代もあるようで、年収800万円の職員も見受けられましたが、現在は殆どおられないのではないでしょうか。
今後の継続就業が可能なのか、収入は安定してもらえるのかなど不安は尽きないと思います。
私自身、理学療法士として病院へ就職後、収入面や働き方に不満が出てきたため転職した経験があります。転職の際、いろいろと調べて回り、現在の介護老人保健施設で働くに至っています。
今回は私自身16年間理学療法士として働いてきて、理学療法士の現状と将来性について私なりに調べたことや感じたことをまとめて解説していきます。
理学療法士が増え続けていることや病院や介護施設の経営状況が悪いことなど不安材料はありますが、高齢者の増加により需要があることや、職域が広がっていることなど、まだまだ未来は明るいと考えています。
この記事を読んで頂くと、理学療法士の抱えている問題やこれから必要と思われる専門性の高め方などが分かると思います。理学療法士になって不安の抱えている方は必見です。
理学療法士の現状
「理学療法士として働いてみたい」と希望をもって養成校を卒業したと思いますが、理学療法士の取り巻く状況は日々変化しています。現状を知ることで今後取り組んでいかなければならないことも見えてくるでしょう。
理学療法士の増加
理学療法士の数は年々増加していることは皆様ご存じの通りです。
実際に資格を持っている人は2024年時点で約21万人となっています。ここ最近は毎年1万人が国家試験を合格しているためこれからも増え続けます。
出典:理学療法士協会「協会の取り組み」
原因としては養成校の増加が挙げられます。平成11年頃から急速に増加しており、同様に理学療法士の数も増えていることがよく分かります。高齢化社会のため理学療法士の需要が高まると考え、国や学校経営者が養成校を急に増やした結果、現在の理学療法士の増加に繋がっているといえます。
理学療法士養成校の増加に伴い、教育の質にも大きな影響が出ているといわれています。養成校によって学生のレベルの大きな差ができているようです。
出典:理学療法士協会「養成校の推移」
現時点では供給数は需要数を上回っていますが、理学療法士の増加によって2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になるといわれています。
出典:厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」(平成31年)
最近は今後理学療法士の資格を取得しても就職先がなかなか見つからないという話もよく耳にします。
つまり、今後は「働き手が過剰となるため給料が下がる」といった収入面での問題や、「やりたい仕事ができなくなる」「理学療法士として働けない人がいる」といった就職面での問題が生じる可能性が高くなります。
思ったより酷い経営状態
病院の74.4%が赤字経営
近年では、74.4%の病院が医業利益において赤字であるとの調査結果も出ており、対策せずして安定した病院経営を行うことは難しい環境になってきているといえます。
下記に赤字経営の要因を記載していますが、病院のトップが院長など医師であることが多く、経営的な能力を有しているとは限らないことも要因の一つです。
以前、私の働いていた病院でも理事長のワンマン経営でした。その方はまだ経営に関してしっかりと考えておられたのですが、息子の代になって経営方針を大きく変更したため経営が傾いてきたことがありました。
介護老人保健施設の33.8%は赤字経営
独立行政法人福祉医療機構の「2021年度(令和3年度)介護老人保健施設の経営状況について」の調査結果によると、赤字の老健の割合は『33.8%』となっています。
病院・介護老人保健施設の赤字経営となる原因
- 人件費の増加
- 患者数・利用者数の減少(稼働率の低下)
- 診療・介護報酬の減少
- 老朽化が進む施設への投資
1.人件費の増加
一つ目は人件費の増加です。働いている職員は少ないながらも収入は増やしていかなければなりません。特に国公立の年功序列制度の病院施設は年々人件費は増え続けていきます。
優秀な医師、看護師、リハビリスタッフを高額で引き抜いてきたとしても希望する患者数は増えるかもしれませんが、診療報酬は一律同じであるため人件費がかさんでしまいます。
介護職などは求人を出しても人が集まらなくなっているため、報酬を増やすことや派遣会社から必要な人員を確保するなど余分な出費が増える傾向があります。
2.患者数・利用者数の減少(稼働率の低下)
入院、入所して暫くは加算の算定など収益が増えますが、長期入院(所)されると算定が減少し利益が出なくなってしまいます。
病院や施設は稼働率を高める工夫をしなければなりませんが、在宅生活困難な状態や介護者の不在など患者・利用者の都合もあるためうまくいかないことも多い状態です。
3.診療報酬・介護報酬の減少
10~20年前は診療報酬も余裕がある設定であったため、ある程度何をやっても儲かる状態でしたが、徐々に高齢化、医療費の増加に伴い診療報酬が下げられたため経営状態悪化が目立っています。
診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回変更されています。どちらも高齢者の増加で医療保険、介護保険の利用される割合が増えているため国の政策として負担割合の増加や診療報酬・介護報酬の減少はますます加速している状態です。
4.老朽化が進む施設への投資
医療施設、介護施設ともに開設後徐々に老朽化し修繕のための費用もかさんできます。また、医療施設であればCT、MRI等高額な医療機器も新しい物に変更していかなければならず一気に高額な出費となってしまいます。
介護施設は2000年に介護保険導入の際に建設された施設が多く、25年余り経っているため大幅な修繕が必要な施設も多くみられます。
私が働いている介護老人保健施設も同様に老朽化が進み、雨漏りの修理や風呂場のボイラー修理、空調の不具合など修繕には苦労しています。夏場に空調が利かなくなると利用者の命にも関わるため冷や冷やします…。
理学療法士の収入は少ない
理学療法士と全産業の平均収入の違い
年収 | 月収 | ボーナス | |
理学療法士 | 約433万円 | 約30万円 | 約71万円 |
全産業 | 約507万円 | 約35万円 | 約91万円 |
全産業累計の平均年収は約507万円、理学療法士の平均年収は約433万円と1年間に74万円の差があります。
どちらかというと全職種の中ではあまり収入がいいとは言えないことがよく分かります。
出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」
医療福祉業界平均年収ランキング
職種 | 年収 | 月収 | ボーナス | |
1位 | 医師 | 約1356万円 | 約103万円 | 約123万円 |
2位 | 薬剤師 | 約596万円 | 約42万円 | 約96万円 |
3位 | 診療放射線技師 | 約521万円 | 約35万円 | 約107万円 |
4位 | 臨床検査技師 | 約513万円 | 約35万円 | 約97万円 |
5位 | 看護師 | 約479万円 | 約32万円 | 約91万円 |
6位 | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | 約433万円 | 約30万円 | 約71万円 |
7位 | 介護支援専門員 | 約420万円 | 約29万円 | 約70万円 |
8位 | 介護職 | 約369万円 | 約26万円 | 約62万円 |
看護師や介護職は夜勤があるため一概には言えませんが、医療福祉業界の平均年収でも理学療法士などリハビリ職の収入はあまり高いとは言えません。
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査一般労働者職種」
理学療法士の将来性について
上記のように理学療法士の増加や病院、施設の経営不振などみられるものの今後も必要とされる可能性はあります。
高齢者の増加
2025年現在、高齢化の波が押し寄せてきています。戦後第1次ベビーブーム世代である団塊の世代(1947~1949年生まれ)の方が75歳以上となり医療・介護・財政・地域社会など多方面で影響が生じており、「2025年問題」と言われています。
国民の3人に一人は65歳以上の高齢者となっており、世界でも3位の高齢化率をとなっています。
世界の高齢化率ランキング(2023年) | 国名 | 高齢化率 |
1位 | モナコ | 35.79% |
2位 | 日本 | 30.07% |
3位 | イタリア | 24.46% |
4位 | フィンランド | 23.62% |
5位 | プエルトリコ | 23.37% |
高齢者の増加に伴い、リハビリへの需要が高まっています。特に地域包括ケアシステムの推進により在宅系(訪問リハビリ)は今後も増えてくるでしょう。
私の働いている介護老人保健施設は病院と在宅の中間施設と言われており、今後ますます需要が高まってくる業務形態といえます。
但し、2040年には団塊の世代が90歳以上となり、急激に人口の減少が始まるため注意が必要です。
職域の広がり
以前は理学療法士の就職先として9割は病院・クリニックへの就職が当たり前でしたが現在は職域が増えており選択肢が広がっています。
- 病院やクリニックなどの医療機関
- 介護施設
- 訪問リハビリ(訪問看護ステーション)
- スポーツ分野
- 行政機関(健康増進や介護予防)
- 医療機器メーカー、医療福祉関連企業
- 福祉施設(発達支援センターや児童福祉施設、放課後等デイサービスなど)
- 教育(養成校の教師)や研究機関
ここ10年位で病院以外の就職先が増えてきています。今後の自身の人生何がやりたいのか再度考えて就職先を選んでいくことも必要です。
理学療法士として生き残るために
これからの理学療法士として生き抜いていくためにはどのようにすればよいのでしょうか。
専門知識を高める
現在働いている業態でも学ぶことは多いと思います。自身のスキルを高めることで職場で必要とされる人員になることが必須です。金銭面や時間、やる気が必要です。できれば養成校を卒業後3年位は必至で勉強することをお勧めします。なぜならば結婚など生活に変化が生じやすいことや、やる気の持続が困難なことが挙げられます。
認定・専門理学療法士へ挑戦する
私は理学療法士協会を抜けてしまったため挑戦はしていませんが、今後取得しておくことで就職や収入に関係してくる可能性があります。
例えば転職の際、同じような経歴のライバルがいた場合に、より真面目に勉強をしていたとみなされることがあるでしょう。
セミナーや勉強会に積極的に参加する
理学療法士の取得には必要な手技などはありません。養成校では必要最低限の検査法や専門知識を学ぶだけです。個別の治療方法を勉強していく必要があります。
- 関節ファシリテーション
- ボバース
- 筋膜リリース
- リンパ性浮腫の理学療法
- 神経系のモビライゼーション
- 川平法 など
治療手技は多義に渡るため自身で必要と考える勉強会に参加したほうがより患者・利用者への介入のヒントになると思います。
資格を取得する
勉強会と内容は似ているかもしれませんがより自身のスキルを高めていくことで、将来の安定性は格段にアップすると思います。
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 心臓リハビリテーション指導士
- 認知症ケア専門士
- 栄養サポートチーム専門療法士
3学会合同呼吸療法認定士
臨床工学技士、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士の中で、それぞれの職種において呼吸療法に習熟し、呼吸管理を行う医療チームを構成する要員を養成し、かつそのレベルの向上を図ることを目的としています。
心臓リハビリテーション指導士
医師、看護師、理学療法士、臨床検査技師、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技師、臨床心理士、公認心理師、作業療法士、健康運動指導士の中で、循環器疾患を抱える患者に対し、運動療法や生活習慣改善の支援を行い、心疾患の治療や再発予防、生活の質(QOL)向上に貢献する専門資格です。
認知症ケア専門士
3年以上の認知症ケアの実務経験がある人の中で、認知症の人へのケアについて、専門的な知識があることを証明する民間資格です。
栄養サポートチーム専門療法士
医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科医師、歯科衛生士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、言語聴覚士など病院で患者さんに最良の栄養療法を提供するために編成される栄養サポートチームの一員となる優秀な人材を育成するために作られた資格です。
管理職を目指す
現在の施設で働き続け管理職を目指すことも方向性の一つです。なかなか収入が増えない業種ではありますが管理職になると役職手当がつくため収入は間違いなく上がります。
また、高齢になり身体機能が低下すれば実務よりも働きやすいといえます。
指導者としてのスキルを磨く
実務として優秀な実力も必要ですが、他の職員に指導したり方向性を導いていく必要があります。
コミュニケーションスキル
リハビリ職員だけではなく病院・施設全体でのコミュニケーションも必要です。また、クレーム処理や職員のケアなど業務は多義にあたります。
病院施設の算定方法や業績について詳しくなる
診療報酬(介護報酬)や算定方法の変更など常に変化があります。どのような形態でリハビリテーション業務を進めていくのか常に勉強する必要があります。
転職
上記でも記載しましたが、病院、介護老人保健施設でも赤字経営が増えています。どのような形態で運営しているのかは調べておく必要があります。
現在の職場でも実は経営困難という場合も大いにあり得るため早めに調べた方がよいと思います。
私の家の近くにあるクリニック兼デイケア施設は、医師は院長一人体制で運営していましたが、院長自身の体調不良で急に閉鎖することになってしまいました。
今現在職場は満足している方でも数年後にはどうなるかは分かりません。もちろん転職先も今後減ってくる可能性があるため今の内から求人情報を調べておくことをお勧めします。
現在私の働いている介護老人保健施設は当面安定した運営が可能と考えています。興味のある方は求人を探してみてはいかがでしょうか。
独立・業態変更
独立開業
基本的には理学療法士としての独立は許されていません。医師の指示のもとリハビリを提供する旨、法律があるのですが独立起業している理学療法士も存在します。
柔道整復師や鍼灸師の資格を取得して整骨院を開業する
理学療法士資格取得後に再度養成校に通い、柔道整復師や鍼灸師の資格を取得することで開業することができます。保険診療が可能であるため利用者確保はしやすいです。
但し養成校に通う金銭面と時間がネックになることが多いです。
整体師として開業する
リハビリの提供とは謳うことはできませんが整体師には資格がいりません。自身の実力があり利用者の満足度を得られる自信があれば開業してもいいかもしれません。但し保険診療ではないため全額自費となります。
介護予防事業をとして開業する
介護予防教室の開催や姿勢調節運動指導などで事業展開されている方もおられます。勿論保険算定はできません。
業態の変更
介護支援専門員(ケアマネジャー) として地域で暮らす人々の生活を支える
理学療法士として5年以上の実務経験があれば受験資格があります。合格率は10~30%と変動ありますが人気の資格になっています。運動や介護の仕事ではないためある程度年齢をとっても働きやすい職種といえます。
副業をする
休みや業務後に理学療法士としてアルバイトをする
自分の仕事以外の時間を活用して収入を増やすことができます。他の病院や施設で経験が得られるため勉強にはなると思います。但し休みが少ないので体調を崩す方も多いため注意が必要です。
情報発信やセミナー、研修会などの企画・運営を行う
今まで得てきた知識を活用しセミナーや研修会を開催し収益を得ることができます。今までの知識を後輩に伝えることでやりがいもある仕事といえます。
まとめ
理学療法士の現状としては、資格保持者の増加や病院、施設の経営困難などの現状はあるものの、高齢社会で職域の広がりもあるためまだまだ働いていくことは可能であることが分かったと思います。
しかし現状で甘んじることなく専門知識を高めることで安定した収入を得ることがでます。今のうちに将来の方向性を考えて自己研鑽に励む必要があります。
現在の職場の経営状況を把握しておくことや転職先を常に探しておくことも安心材料になると思います。
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